どうも、広く浅いオタクの午巳あくたです!
今回はアーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ2作目「四つの署名」について語りたいと思います。
ミステリー史に残る大名言を生んだ本作の、あらすじと感想、そしてもう一度読みたくなるネタバレ解説をご紹介いたしますのでぜひ最後までお付き合いください。
あらすじ
緋色の研究以来、ろくな事件が起きずに退屈を持て余していたシャーロック・ホームズは、麻薬に興じて虚無を紛らわし、同居人であるジェームズ・ワトスンを呆れさせていた。
そんな彼らのもとに、依頼人が舞い込む。貴族の家で家庭教師をしているメアリー・モースタン嬢が、ここ数年、決まった日に高価な真珠が自分のもとに贈られてくるようになったという。
誰が、なんの目的で自分にこんなことをするかを訝しんだモースタン嬢。するとその贈り主から直接会いたいという旨が記された手紙が届いた。
同伴者を連れてきてもかまわないというので、そこで雇い主の勧めでシャーロック・ホームズに相談することにしたらしい。
ひさびさにやってきた謎に大喜びのホームズは、二つ返事でこれを了承。
いっぽうワトスンは、依頼内容もさることながら、若く美しいモースタン嬢にも関心を抱き…
感想:あのミステリー史に残る名言に出会える
すべてのありえないことをとり捨てていけば、あとに残ったのが必ず真相でなければならない
でたー!
と初めて本書を読んだとき内心で叫びました。
僕は名探偵コナンでこのセリフを知ったんですが、ついにオリジンに出会えたわけですね。
訳者によって微妙に言い回しが違いますが、このセリフはあらゆる作品に登場・引用されていて、シャーロックホームズを読んだことが無くても、このセリフだけはご存じの方も多いのでは?
そしてそんなミステリー史に残る名言が、この「四つの署名」で初めて登場するのです。
ちなみにですが、コナン君もシャーロック・ホームズシリーズの中では四つの署名がお気に入りであり、ひいては青山剛昌先生のお気に入りでもあるみたいです。
このセリフはシャーロック・ホームズという名探偵が名探偵たる所以で、彼の探偵としての在り方を示しています。
本書の中におけるホームズは、宣言通り不可能を排除していきながら真相に辿り着いていました。
ホームズは直感やインスピレーションに頼らず、観察と洞察から得た知見を検証しながら結論まで導くことを「推理」と称し、ひとつの科学であるという信念を持ちます。
そしてこのスタイルは、後世に続く「名探偵像」の礎になっていると言えるでしょう。
四つの署名は、そんなシャーロック・ホームズの名探偵像を確立した作品であると思います。
ホームズは真相に辿り着くために、頭脳でだけではなく足も使います。街に出て、ときに銃を手に持ち、危険も顧みずにロンドンの暗部に足を踏み入れるのです。四つの署名では彼のそんな特性が顕著に出ていて、ミステリーというよりは冒険譚と称した方がいいかもしれません。
それもこれも、社会正義のためというより、ただ真実を知りたいという利己的な欲求に基づいているのが、いたって彼らしいところ。
本書はそんな”らしさ”に溢れています。ゆえに代表作と言ってもよいでしょう。コナン君が気に入るのもわかる気がします。
第一作である緋色の研究はシャーロック・ホームズという小説の「世界観」を示した作品であり、この四つの署名はシャーロック・ホームズという「名探偵の在り方」を示した作品だと個人的には思います。
解説:19世紀のインドとイギリスの歴史から紐解く※ネタバレあり
※この章では重大なネタバレを含みます。未読の方は飛ばしてください
読書済みなのでクリックして続きを読む
この事件の黒幕であるジョナサン・スモールという義足の男と彼の相棒であ凶暴な原住民のトンガ。
なかなか個性的なバディで、そんな人物たちがイギリスのロンドンという街にやってきた経緯もまた、なかなかに異彩を放つエピソードでしたね。
実はその背景事情は史実に基づいており、そこを理解すると物語がグッと面白くなるのです。よってこの章では、本作に関連する19世紀のイギリスとインドの歴史を紐解きながら解説いたします。
ホームズたちの生きる19世紀後半は、まさに大英帝国時代。イギリスは世界各地に侵攻し、各国は植民地化していました。
その中にはインドもあったのです。
そんなインドに軍人として出向していたのが、スモール。現地で足を失った彼は、苦力(クーリー)の監視の仕事についていたようです。ちなみに苦力とは、インドや中国の移民たちによる奴隷のこと。
しかし、その時に起こった出来事を彼はこう語ります
おだやかだったインドに、突然20万人の現地人が蜂起して全インドが地獄と化したちまった
おそらくこれは1857年に実際に起きた「インドの大反乱」の事だと思います。イギリスの圧政に我慢ならなくなったインド人たちによる大規模な一斉蜂起です。
そしてスモールは、アグラという街に赴き、そこにある要塞を本拠地とすることになりました。
この要塞については詳しい場所は言及されていませんが、いちおうインドには現存する要塞があります↓
これは世界遺産にも登録されているインドのアグーラ城塞。いまは観光名所となっているみたいですね。
写真で見ればわかるとおり、相当大きな要塞です。作中でもスモールがやたらとでかい要塞だったと言っていたので、もしかしたらここのことだったのかもしれませんね。
そしてそんな巨大な要塞で、スモールは運命の出会いを果たします。マホメット・シン、アブズラ・カーン、ドスト・アクバルという3人の現地人。
彼らはとある王朝の王族が、財宝をこの要塞に隠したという情報をつかみ、それを奪い取る算段をしていたのです。
ひょんなことから彼らの一員に加わることになった、唯一のイギリス人のスモールは、彼らと密約を交わしその証として「四つの署名」をもとに結束したわけです。
この財宝の価値は50万ポンド。当時の貨幣価値で換算すると、およそ250億円です。
しかし、財宝を手に入れるために召使を殺したことがバレ、4人は逮捕されてアンダマン諸島の島に送られることになるのでした。
万事休すかと思われたとき、カードで大敗して借金を背負ったメアリーの父であるアーサー・モースタン大尉と、ジョン・ショルトー少佐に出会います。
彼らに財宝の存在をちらつかせ、二人の協力を得てスモールは他の三人ととともに脱獄を試みますが、またもや災難に見舞われるのです。
ジョン・ショルトー少佐が裏切り、財宝を独り占めしてしまったのです。
こうして結果的には、20年以上もスモールは島に囚われるわけですが、現地で仲良くなった先住民のトンガの力を借りて、彼は脱獄したのです。
そして事件に至ったわけですね。
ところでこのトンガという男について、少し調べてみました。
まずスモールが送られたアンダマン諸島というところは、インドの領地に現存するみたいです。
そこには世俗とは隔絶された、先住民たちが今なお暮らしていて、非常に排他的であることで有名。
この島々で暮らす原住民たちは「世界で最も孤立した種族」とまで言われているみたいですね。
作中におけるトンガは、かなり凶暴な人物として描写されていましたが、実在する先住民であるジャワラ族やセンチネル族なんかは非常に攻撃的で、島に上陸しようと試みる学者やジャーナリストが問答無用で彼らに弓矢で迎撃されたり、実際に殺害されたりしているとのこと。
トンガのように毒矢を使ったり、食人をしたりする民族の情報は調べた限りありませんでした。
ただ、そもそもアンダマン諸島は政府でさえ立ち入れないほど隔絶しており、先住民たちがどういう生活をしていてどんな文化形態をしているのか、今なお詳しいことはわかっていないようなんですよね。
そして財宝を手にしたスモールでしたが、ホームズに阻まれたわけです。
個人的に興味深かったのは、スモールが他の三人に対して絆を感じていたところ。欲に目がくらんだもの同士によるただの共犯関係でしたが、妙に彼らに義理立てしているようなニュアンスがあったんですよね。
インドの大反乱時代、普通の人たちが殺し合っている中、悪人たちは本来なら敵同士であるはずなのに手を結び署名をもとに絆を結んでいたなんてなんだか皮肉な話ですね。
そしてこの小説は欲に目がくらんだ裏切り者たちによる物語。
スモールも他の三人も自分の国を裏切って財宝をわが手にしようとしました。
そして軍の上層だったはずのアーサー・モースタン大尉と、ジョン・ショルトー少佐も背徳行為で国を裏切り、ショルトーにいたっては親友を含めた共犯者たちも裏切ったのです。
その結果はこの小説の結論のとおり。裏切りの報いは、それぞれがそれぞれの形で受けたのでした。
まとめ:こんな人におすすめ
本書はこんな人におすすめです。
- 名探偵コナンファン
- あらゆる名探偵の原典に興味がある
- 予測がつかない物語が好き
時代問わず、性別問わず、ミステリーに出てくる探偵たちは源流をたどれば、シャーロックホームズに行きつくんじゃないかと思います。
ミステリーが好きなら誰もが一読の価値がある傑作だと思います。