どうも広く浅いオタクの午巳 あくたです。
こんかいは青山美智子さんの「赤と青とエスキース」について語りたいと思います。
2022年本屋大賞で2位を獲得した本作のあらすじや感想を徹底解説いたしますので、ぜひとも最後までお付き合いください!
「赤と青とエスキース」とは?あらすじとジャンルの概要
「赤と青とエスキース」は短編集で、それぞれ独立したお話です。
ジャンルでいうなら恋愛とヒューマンといったところでしょう。以降で第一章のあらすじをざっくりご紹介!
交換留学生としてメルボルンに滞在するレイは、内向的な性格が災いして、いまひとつ環境になじめずにいた。
そんな折、現地に住むブーと出会う。彼は日本人の父母をもちながら、一度も日本の地に足をふみ入れたことのない青年だった。
明るく社交的で、みんなを笑顔にし、ときおり影をのぞかせるブーにレイは惹かれ、やがて恋人同士となる。
でもそれは、レイが帰国するまでの「期間限定の恋人」だった。
そして帰国を控えたレイに、ブーは提案する。
「絵のモデルをやってくれないか?」
ブーの知り合いである駆け出しの画家、ジャック・ジャクソンに自身の絵を描いてもらうことになったレイ。
のちに「エスキース」という題名がつけられる絵が完成すると、二人の想いは溢れ出し…
…といった感じです。
このお話の主人公はレイですが、それ以降はそれぞれまったく違う主人公が据えられます。
それぞれのお話に共通するのは「エスキース」と名付けられた絵です。この絵がすべてのストーリーに登場し、なにかしらの形で関わっていきます。
つまりこの小説は、エスキースという一つの絵が恋に仕事に悩み苦しむ人々を、そっと見守っていくというストーリーなのです!
登場人物の魅力とストーリーにおける役割
レイ
第一章「金魚とカワセミ」における主人公。第一章は彼女の視点で描かれる。
メルボロンに交換留学として滞在している21歳の大学生で、やや引っ込み思案な性格。
現地に住むブーという青年と知り合い恋に落ちるも、「日本に帰るまでの期間限定の恋人」であると割り切っている。
ブーの知り合いの画家であるジャック・ジャクソンの絵のモデルになり、彼女を描いたその絵は「エスキース」というタイトルがつけられた。
ブー
メルボルンに住む21歳の青年。
人当たりがよく仲間も多い、典型的な陽キャ。しかし一方で留学で来る学生たちを見ながら「ここは竜宮城なんだ」と無表情につぶやいて見せるなど、影を感じさせる一面も。
レイとの期間限定の恋人関係が終わりに近づくさなか、彼女に絵のモデルをやってもらうよう頼む。
空知
第二章「東京タワーとアーツ・センター」の主人公。
額縁の職人になるために、工房で修行する青年。常連からのオーダーメイドの額縁制作依頼を受けたのだが、その絵が「エスキース」だった。
さらに彼は過去にメルボルンに旅行に行った際、エスキースの作者であるジャック・ジャクソンの絵に一目ぼれしてた経験を持っていた…
タカシマ剣
第三章の「トマトジュースとバタフライピー」の主人公である中堅の漫画家。
かつての弟子でありながら、自分よりも売れっ子になってしまった砂川との対談のため、とあるカフェに赴く。
その場所には「エスキース」が飾られており、妙に惹かれてしまう砂川。
対談が始まったはいいものの、砂川に対して複雑な思いを抱いてしまい…
茜
第四章「赤鬼と青鬼」の主人公。
輸入雑貨店で働く中年女性で、仕事熱心な性格。
店長の誘いで買い付けのためイギリスに行くことになったはいいが、パスポートは元カレの蒼のもとにあることを思い出す。
しかたなく彼と連絡をとった茜だったが…
読んでみた感想
とにもかくにも、文章表現がすばらしい。本当に素敵な言いまわしや比喩、ハッとさせられるセリフが満載でした。
お気に入りのフレーズを一つご紹介。
彼の言葉が、猫が着地するみたいにすとんと胸の奥に降りてきた
でもその猫の正体を私は解き明かすことができなかった
「ちゃんと理解はできなくても、なんとなく腑に落ちた」ってことなんでしょうけど、こんな微妙なニュアンスを、こんなオシャレかつユーモラスに喩えてみせるなんて…
羨ましいほどの言語センスです。
このような洒落た表現で綴られていく物語は、なんてことないワンシーンでも色彩豊かに感じられました。
正直それだけでも十分に読み応えがあるのですが、それだけじゃありません。
この本はあらすじ部分で紹介したお話が第一章。それ以降に別の人間が主人公となる話が三話あります。
それぞれの話にいつも登場するのが、第一章で描かれた「エスキース」という絵画。
この本は悩める主人公たちをエスキースが見守り、ほんのすこし彼ら彼女らの背中を押す。そんな話に見えます。
そう、見えるんですが…ちょっと違うんですね。
この本はずっと一つの物語を描いていたんだと、途中で気づかされることになりました。
もちろん詳しくはここでは述べません。
最後のもう一つ。この物語の中心となる「エスキース」についてです。
エスキースは「下絵」という意味らしく、小説でいうプロット、漫画ならネーム、料理なら下ごしらえみたいなもののようです。
完成された絵に、なんでそんなタイトルをつけたんだろう?
そんな疑問を抱きながら読んでいたのですが、読み終えたら大いに納得できました。
確かにこの絵は「エスキース」以外にふさわしいタイトルがないなと、思わされたのです。
「赤と青とエスキース」の評価:読者の口コミから見る作品の魅力
文章が綺麗で優しくてごく普通の日常を色鮮やかに彩っている感じがした
度肝を抜かれた…「ああ、こういう感じの短編連作ね」と読んでいたら、ラストに衝撃を受けた
怒涛の伏線回収。すぐに読み返しました
今まで読んだ青山さんの小説の中で一番良かった。胸がじわっと温かくなるようなストーリーで、スッと涙が頬をつたった
やはりラストの展開に驚かれた方が多い印象です。
また青山作品の特徴である、優しく暖かな物語に対する評価も高いようですね。
映画化の可能性は?「赤と青とエスキース」の未来を予想
2024年9月時点では映画化の話は噂レベルでも存在しません。
正直な話、この作品は映像向きではありません。小説ならではの楽しみ方ができるものなので…
仮に映画化するとしたら、その構成や見せ方などを大きく改変する必要があるため、あまり良い予感がしないですね。
ただまあ「イニシエーション・ラブ」みたいな例もありますからねえ。
まとめ
「赤と青とエスキース」はただのほっこり感動物語ではありません。アッと驚くようなエンターテイメント要素も存分に楽しめる作品と言えるでしょう。
どうぞ読む際はいろいろ警戒しながら、伏線を探しながら読んでみてください。でも、たぶんですけど…「アッ!」となりますw