「生命式(村田沙耶香)」のあらすじ・感想。ネタバレ解説をご紹介

「生命式(村田沙耶香)」のあらすじ・感想。ネタバレ解説をご紹介 小説

どうも、広く浅いオタクの午巳あくたです。

今回は村田沙耶香さんの「生命式」について語りたいと思います。

村田沙耶香イズムを存分に堪能できる本作の、あらすじや感想、そしてネタバレ込みの解説をご紹介いたしますのでぜひ最後までお付き合いください。

あらすじ

「中尾さん、美味しいかなあ」

脳梗塞で亡くなった人が社内にいれば、当たり前のようにこんな会話が繰り広げられる。

葬式というスタイルは廃れ、いまや死んだ人間を調理して親族・友人間で食し、そのあと男女連れだって性行為にふける「生命式」が主流となった。

人肉を食べることにとある理由で抵抗を感じる池谷は、そんな世の中で少々の生きづらさを抱えていた。

だが同じくして生命式を苦手とする山本という同僚がいた。数少ない喫煙者同士という意味でも親近感を覚えていて、彼との会話にささやかな安らぎを感じる池谷だったが…

※表題作「生命式」のあらすじ

感想:いつも以上に喧嘩腰な村田沙耶香節

表題作である「生命式」をはじめとし、本書における村田沙耶香さんはかなり喧嘩腰だなと感じました。

常識へのアンチテーゼは、村田作品の普遍的なテーマであり、どの作品でも多かれ少なかれその主張はあるのですが、この短編集ではとりわけ顕著な印象です。

のちの解説パートで詳しく述べますが、とりあえず例を挙げるならやはり表題の生命式。

死んだ人間を食べるという文化が定着した日本というとんでも設定でありながら、それでもその中には「正しさ」があり、「良識」もあるのです。

彼女の作品には必ずと言っていいほど狂ったナニかが存在し、その発狂を肯定するような世界を描き、その描写は紙面を超えて僕らを説き伏せてしまうほどのパワーがあります。

ラストに辿り着くころには彼女の描く発狂が美しいとさえ感じさせるのです。

本作はそんな怪しく、あるいは妖しく、危なげな香をまとった美に満ちていました。

ここでは生命式という作品に焦点を絞って解説しますが、本書では他の短編においてもあらゆる常識へのアンチテーゼが謳われています。

自分の価値観を右に左に揺らされ、振り回される感覚を、存分に味わえることでしょう

ネタバレ解説:発狂の肯定

この章ではネタバレを含みますので未読の方は飛ばしてください

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表題作の「生命式」は、おそらく村田さんの作家性がもっとも色濃く出ている作品。

死んだ人を食べるのが恒常化した世界なんて、現実を生きる僕らからすれば、あからさまに狂った世界です。

そんなイカれた世界観を、あくまでフィクションとして楽しみつつも、ただ堪能するだけでは終われないのが村田沙耶香イズム。

ここで作中のセリフを一つ引用します。

正常は発狂の一部でしょう?この世で唯一の、許される発狂を正常と呼ぶんだって、僕は思います。

このセリフを目にしたとき、真っ先に思い浮かんだのは人間動物園です。

それは19世紀から20世紀にかけてアメリカやヨーロッパにかけて開催されたもの。その名の通り、人間を展示し、見世物にしていたレジャー施設です。

展示されていたのは、アフリカ人やインド人など、いまなお被差別階級として知られる人種の方たち。

出典元:Wikipedia

その当時、ダーウィン進化論に基づく白人優生思想によって、その他の人種や彼らが形成する社会を進化論上劣っていると見なされ、このような娯楽に発展したとのこと。

まさに発狂しているとしか思えません。生命式の世界に負けず劣らず。

しかし人間動物園はフィクションではなく、紛れもない史実であり、わずか100年ほど前まで実在していました。

つまりこの当時の世界の発狂こそ、マジョリティから「許された発狂」であり、ひいては「常識」とされていたのです。

もういちど申し上げますが、たったの100年前のことです。

そしてもしかしたら、今より100年後の世界では、そこに生きる人々がいまの僕らの日常に狂気を見出しているかもしれないのです。

例えば、人間動物園は無くなっても普通の動物園は当たり前のように、世界中に存在します。未来ではそれを残忍で狂った行為だと認識されるかもしれません。

そう考えれば、人間の生きる世界は常に狂っているのだと思えてきます。生命式という物語の中の世界では、死んだ人を食べることは許された発狂であるというだけなのです。

そして極めつけはラストシーン。

生命式の後の恒例行事で、男女が外でセックス…いえここでは「受精」と表すべきですかね、とにかく性行為に及ぶわけですが、浜辺で何組もの男女が各自で入り乱れている光景というのは、あまりに狂っています。

しかしそんな景色を、美しいと思えるほど叙情的な文で描写していましたね。

これは村田沙耶香さんの肯定。どれほど狂っていても、その世界を私は肯定するという意志に思えました。

そして読み終えるころには、僕自身もこの異常な世界を肯定したくなりました。同じように思う方は少なくないでしょう。

こんな世界を読み手にまで肯定させるなんて…種暴力的とさえ思えるほどの描写力です。

まとめ:こんな人におすすめ

「生命式」はこんな人におすすめです。

  • イカれた世界観が好き
  • 価値観を揺さぶるような表現に惹かれる
  • コンビニ人間を読んだことがある

村田紗耶香さんの世界観や作家性をとことん知りたいなら特にお勧めです。

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