「流浪の月」の魅力とは?あらすじから登場人物、テーマを徹底解説

「流浪の月」の魅力とは?あらすじから登場人物、テーマを徹底解説 小説

どうも、広く浅いオタクの午巳あくたです。

今回は凪良ゆうさんの「流浪の月」について語りたいと思います。

2020年の本屋大賞を受賞した本作のあらすじや感想を徹底解説しますので、ぜひ最後までお付き合いください。

流浪の月とは?物語の概要と著者・凪良ゆうについて

「流浪の月」は、著者・凪良ゆうによる長編小説です。

凪良ゆうさんは元々BL小説の作家だったこともあり、「理解されない二人の関係」に焦点を当てた物語を紡ぐことに長けており、いわゆるロミオとジュリエット的な物語を書かせたら随一であると個人的には思っています

そしてその作風がいっそう際立っているのが、この「流浪の月」です。

2020年の本屋大賞を受賞し、大きな注目を集めた本作は、映画化も果たし、彼女の代表作の一つとなりました。

流浪の月のあらすじ:愛と孤独が交差する物語

やかな父と自由奔放な母に育てられ、少し変わった女の子だけど、幸せな日々を送っていた更紗(さらさ)。

しかし、思わぬ悲劇により孤独な毎日を生きざるを得なくなる。

そんなとき、あまりよくない噂が流れている謎の青年 文(ふみ)と出会う。友情でも、愛情でもない、不可思議な絆を育む二人。

だが、そんな二人を世間は許さず、引き裂かれてしまう更紗と文。

時が経ち、大人になった更紗は、またしても数奇な運命に導かれ文と再会。

ところが、時が経っても、大人になっても、それでも世界は決して二人を認めず…

登場人物

ここでは物語の主軸となる二人について紹介いたします。

更紗(さらさ)

24歳のフリーター。子供のころは活発だったが、大人になってからは控えめで自己主張が乏しい性格となった。

彼氏がいて一見すると順調そうに思えるが、彼女自身はその関係性に疑問を抱いている。

文(ふみ)

34歳のカフェのマスター。

更紗と出会ったときの15年前は、公園に一人でいることが多く、近所から怪しまれていた。小児性愛者という噂もある。

読んでみた感想:文学的テーマの考察

物語に触れて、「胸が締め付けられる」といった感覚は、誰もが経験したことがあるでしょう。

そしてこの流浪の月は、そんな痛みにあふれています。

人よりも大きな歪みを持ってしまったがゆえ、どこに属せず、誰の理解も得られない更紗と文。

そんな二人の「息苦しさ」、あるいは「生き苦しさ」が、全編を通して痛いほど伝わってきます。

お互いが唯一の支えであり、一緒にいることが救いなはずなのに、それが決して許されない。

こういったセリフが実際にあるわけじゃありませんが

「もう放っておいて欲しい」

と二人が胸中で叫んでいるのが、聞こえてくるようでした。

でも、更紗と文の周囲には常に「放っておかない人々」がいます。

モラル、善意、良識、親切などで飾り立てた美しくも鋭い刃物のような言葉で、あるいは行動で、二人を傷つけ苦しめるのです。

読んでいる最中は、そんな「放っておかない人々」にひたすら憤り、恨みがましく思います。

しかし、読み終えて、ふと立ち返ってみると

「自分も「放っておかない人」になったことがあるのでは?」

と考えざる得なかったのです。

明らかに常識はずれの行為をしている人、誰がどう見ても破滅の道を辿っているように見える人。そんな人に、善意による刃を振りかざしたことが、絶対にないとも言い切れないのでした。

もしかしたら、過去にリアルな世界に存在する「文」や「更紗」のような人を、自覚なく苦しめていたのかもしれない…

といった感じで、ただ「面白かった」とか「感動した」だけでは終われず、重苦しくも大事な教訓が身に染み込んでくる作品でした。

そんな本作の文学的なテーマは、「真実の形」であると思います。

真実は事実を組み合わせれば、ある程度は浮かび上がるもの。

血まみれの男が死んでいるという事実があり、その側に血濡れたナイフを持った女が立っているという事実があれば、その女が男を殺したという真実が浮かび上がります。のちに女が「自分が刺しました」と自白すれば、さらにはっきりとした真実が形どられるでしょう。

そして、例えば以下のような事実がさらに加わったらどうでしょう?

・夫から離婚を突き付けられて逆上して刺してしまった。

・夫のDVに耐えられず、抵抗しようとした弾みで刺した。

男を刺すに至るまでの経緯がどちらであるかによって、まるで事件の見え方が変わりますよね?

これがいわゆる「真実の形」。組み合わさる事実がひとつ違えば、これほどたやすく変容してしまうものなのです。

たくさんの事実が得られれば、比較的はっきりとした真実の形を見出せるでしょう。ですが事実が少なければ、曖昧な形しか捉えられません。

ところが、少ない事実に憶測や印象を混ぜ合わせ、「真実風のナニか」を見出してしまうのが人の世であり、そしてSNSが発展した現代においては特にそれが顕著であると言えるでしょう。

本作を始めとして、凪良ゆうさんの作品は「真実風のナニか」が世に広まり、「真実の形」が歪められてしまうシチュエーションが多いです。

間違いなく、凪良ゆうさん自身が昨今の風潮に疑問を抱いていると言えます。

今の世の中だからこそ、僕たちは「真実の形」について考えるべきなのかもしれません。

まとめ:こんな人におすすめ

・ロミジュリ的な話が好き

・胸が締め付けられる切ない物語に浸りたい

・昨今のネットの風潮に疑問を感じる

特に、人間の愚かしさや醜さを丁寧に表現するような作品を好む方にオススメ。

ただし、この作品は男女が中心となって展開されますが、決して「ラブストーリー」ではありません。

この辺りは、物語の核心に近いところなので詳しくは述べませんが、ラブストーリーを期待して読むのはお勧めできませんね。

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