「ゲット・アウト」のあらすじと感想。もう一度観たくなる伏線の解説

「ゲット・アウト」のあらすじと感想。もう一度観たくなる伏線の解説 映画

どうも広く浅いオタクの午巳あくたです。

今回は2017年公開の「ゲット・アウト」について語りたいと思います。

映画批評サイトのロッテントマトにおいて、批評家支持率99%という驚異的な数値を出した本作のあらすじと感想、そして視聴済の方向けにもう一度観たくなる解説もご紹介いたしますので、ぜひ最後までお付き合いください。

あらすじ

クリス・ワシントンは恋人のローズの実家に、初めて挨拶に行くことになる。

白人のローズの両親が、黒人である自分を受け入れてくれるか不安に思うクリスだったが、ローズは「パパは大統領選挙でオバマに投票したくらいだから大丈夫」と請け負う。

郊外の自然に囲まれた立派な一軒家に赴いたクリスとローズ。

ローズの父 ディーンは「やあ兄弟」とクリスを歓迎。母のミッシーも暖かく彼を迎え入れた。家にはローズの両親と、弟のジェレミーに加え、メイドのジョージナと管理人のウォルターという二人の黒人がいた。

自分に対して好意的なローズの両親たちの態度に、いっときは安心するクリスだったが……

感想※ネタバレ無し

観終わったあとに、記憶を消してもういちど観たくなるタイプの映画でした。

序盤から終盤にいたるまで、ずっと違和感にあふれていて、いろいろ考察してみるのですが、そんな僕のちんけな想像をさらに超えていく結末を用意してくれました。

映画の作りとして特に逸脱していると感じたのは、ミスリードの巧みさ。もちろん詳しくは述べませんが、おそらくほとんどの人がひっかかるであろう見事な仕掛けだったと思います。

そしてこのミスリードの仕掛けは、観客に対して「うわ、騙されたわあ」というサプライズ要素だけでなく、観客自身の中にある「○○○○」を明るみにする役割を持っています。

詳しくはネタバレパートのテーマ考察のほうで述べていきますので、視聴後にぜひ読んでみてくださいね。

ゲット・アウトに散りばめられた伏線を紹介

※この章では重要なネタバレを含みます。未視聴の方は飛ばしてください

視聴済なのでクリックして続きを読む

「ゲット・アウト」の作中に散りばめられた数々の伏線を、僕が探しうる限りすべてご紹介いたします。

鹿の意味

序盤でローズの運転する車に轢かれ、死んでしまう鹿がいましたね。何かを示唆するようで意味深で不穏なシーンでした。

実は鹿は英語でDeerというのですがこれはスラングとしての意味もあり、『彼女をつくろうとして失敗してしまう男』というものだそうです。

つまり絶対に彼女にしてはいけない女を選んだクリスの象徴だったわけですね。

警官

鹿を引いた後に呼んだ警官が、クリスに対して不当に身分証明書を提示するよう求めたシーン。

あからさまに差別的な警官に対し、ローズは怒りをこめて「必要ない」とクリスに言い、警官を突っぱねます。

これでローズは善人だと思った人も多いんじゃないでしょうか?

しかし実際には、クリスがここにいたという記録を警察のデータに残したくないための行動だったのです。

ミスリードと伏線の両方を担う脚本の妙が光るワンシーンでしたね。

そしてこの警官による差別には、他に二つの意味があると個人的には思っているのですが、それについては後に続く章で解説します。

禁煙を勧める理由

クリスが喫煙者であると知ると、父親のディーンは執拗に禁煙を勧めていましたね。あれには3つの意味があると思います。

  • 催眠術を受けさせる口実
  • 喫煙という習慣があるとクリスの体の価値が下がるため
  • 煙草には覚醒作用があるため催眠術が効きにくくなることを懸念して
全力ダッシュしているウォルター

視聴者を一番驚かせたシーンが、夜中に庭に出たクリスに向かって管理人のウォルターが全力疾走してくるところじゃないでしょうか?

実はここも重要な伏線。

家に来たばかりのクリスにディーンが写真を見せたシーンを覚えていますか?そのとき、ディーンが自分の父親はランナーでオリンピック候補だったことを明かしました。

つまり元ランナーだった爺さんが、若い体を手にしたことでハシャいでいたってことですね。

中身がローズの祖父であることを示唆している重要なシーンだったわけです。

鏡に見とれるジョージナ

同じく深夜の庭でのシーン。クリスが家の窓を見上げると、窓際に立ちすくむジョージナの姿がありました。

じっさい彼女は鏡に映る自分を見て、嬉しそうにしていたわけです。

ここもまた、若く美しい体を手にしてハシャいでるお祖母ちゃんという意味だったんでしょうね。

黒い車の群れ

パーティーが始まり、続々と高級車が敷地内に入ってくるのを、クリスが窓から見ているシーン。

すべての車体の色がブラックだったのが意味深でした。定番色とはいえ、いくらなんでも全ての車が黒色というのは違和感があります。

やってくる富裕層の白人たちはみんな黒い車を運転している……つまり黒人の体をのっとる白人という象徴的な意味だったと思われます。

パーティーの参列者

パーティーの参列者はほとんどは高齢者でした。ディーンの友人なわけですから、それは納得できますが、多くの人物が体に難点を抱えていた点に注目。

クリスにタイガーウッズの話をした人物は杖をついていたし、彼の体を触っていた夫人の夫は呼吸器つけていました。

そしてクリスの才能を買っている盲目の人物もいたのです。

つまりパーティーでクリスに関心を示したのは身体に問題を抱えていた人ばかりなのです。

健康で若い肉体を欲している人物たちの集まりであるという伏線でもあったのでしょう。

使用人とハグする富裕層の婦人

車からおりた白人女性がウォルターをハグするシーンがありました。

昔からの馴染みであっても、使用人の立場にある男とハグするというのはいささか違和感があります。

これはウォルターが祖父であることを示唆しているのでしょう。実際ハグした女性もけっこう高齢な感じでしたしね。

握手

ローガンと話し終えたあと、クリスが拳を差し出したのに、ローガンがその手を握ったシーンがありました。

少し意味が分からなかったのですが、調べてみて納得しました。拳同士を突き合わせる「フィスト・バンプ」はどちらかというと黒人間で流布している挨拶みたいです。

つまり中身が白人であるローガンは、とっさに普通の握手をしてしまったというわけです。

泣き笑いするジョージナ

クリスが「周りは白人ばかりで辛くないか?」という問いかけに、ジョージナは笑いながら涙を流し「私に主はいない」と答えました。

あまりに意味不明で不気味なシーンでしたが、結末を知ってからようやく理解できました。

あの涙はジョージナの中に残る彼女本人の意思によるものだったんですね。そして笑ったのは彼女の体をのっとった祖母なのでしょう。

ゲットアウトの意味

クリスに写真を撮られたローガンが鼻血を垂らしながら激高し、「Get out!」と詰め寄るシーンがありました。

クリスに対して怒りをぶつけたように見えましたが、むしろ逆で「(このままじゃお前も体をのっとらっれるから)出ていけ!」という警告だったんですね。

そしてタイトルの伏線回収でもあったと……いやあ、お見事です。

テーマの考察:「差別意識」を利用したミスリード

※この章では重要なネタバレを含みます。未視聴の方は飛ばしてください

視聴済なのでクリックして続きを読む

この映画では、父親のディーンをはじめ白人たちが、黒人に関する意見を述べるシーンが印象的です。

ディーンは「もしもオバマが三期目も立候補できたなら、間違いなく彼に票をいれたよ」と言い

パーティーにきていた杖をついた老人は「タイガー・ウッズは最高のゴルファーだと思う」と言い

同じくパーティーに参加している大柄な男性は「時代は黒だよ」なんて言ったりしています。

クリスはもちろん、観ている僕も、これを差別表現として受け取りました。彼らの言に含まれるニュアンスは「我々は黒人の君を受け入れているよ」という上から目線の受容であり、白人優生思想を匂わせていました。

しかし、実際に彼らは白人優生思想からくる黒人差別をしていたのかというと、そうではありません

彼らは黒人という人種にある種の崇拝めいた思想を持つ、「黒人優生主義」とでもいうべき人々だったのです。

ただ単に丈夫な体が欲しいから黒人の体を欲したんじゃないの?

と思われる方もいるかもしれませんが、そうじゃないと自信をもって言えます。

まずクリスですが、彼はカメラを仕事(もしくは趣味)にしていて、どちらかというとアーティスト気質の青年でした。また先に体をのっとられたローガンもジャズシンガーで、やはりアーティストです。

丈夫で健康な体を求めるなら、スポーツ選手や肉体労働従事者などの体を集めると思いませんか?

また父親のオバマ支持についても、政治に運動能力は関係ないので、黒人の丈夫な体を評価しているセリフではありません。

そもそもの話、黒人を卑下する思想があるなら、黒人の体に入ろうだなんて思わないはずです。より若く、丈夫な体の白人を使えばいいだけの話。

つまり彼らは、肉体においても芸術的な感性においても、そして政治的な指導力においても、黒人の方が優れているという思想だったのです。

そのうえで、彼らのセリフを振り返ってみると、なんのことはありません。彼らは素直に黒人への憧憬を語っているにすぎないのです。まあそれも一種の差別意識と言えばそうかもしれませんが、いわゆる白人優生主義的なソレではなかったのです。

つまるところ、良いと思うものを良いと言っているだけなのでした。

それなのに、なぜ僕はクリスが差別されていると認識したのでしょう?僕だけじゃなく同じような認識を持った方は少なくないはず。

それには二つの要因があります。

ひとつは、序盤の「警官」です。例の警官の差別シーンは、ローズが敵であるという伏線の他に、視聴者に「黒人差別」という意識を植え付けるためでもあったのだと思います。

あのシーンがあったから、僕らは後に続くディーン達の発言を差別だと受け取ってしまったのです。実に見事なミスリードですね。

そしてもうひとつの要因であり、もっとも重要なのが、「黒人は被差別階級である」という僕らの先入観であり、差別意識なのです。

ディーンやその他の人物たちは絵にかいたような白人の富裕層たちです。そんな彼らが黒人について何か言ったら、それは「=差別」だと僕らは勝手に思い込みました。

もしもですが、この映画のキャストの白人と黒人がまったく逆だったらどうでしょう?

「次の選挙もトランプに投票するよ」

「ステファン・カリーは最高のNBA選手だよ」

仮にうまいミスリードがあっても、これらのセリフに白人を差別するニュアンスが感じ取れるでしょうか?

つまりこの作品における最大のミスリードは、観客自身に内在する偏見だったのです。

よって「ゲット・アウト」の主要なテーマは、差別行為そのものというより、多くの人がそうだと気づかず抱える「差別意識」なのではないかと考察します。

ゲット・アウトには結末が二つあった!?もう一つのエンディング

※この章では重要なネタバレを含みます。未視聴の方は飛ばしてください

視聴済なのでクリックして続きを読む

実はゲットアウトにはもうひとつの結末がありました。YouTubeで別バージョンを公開しているので、とりあえず観てみてください↓

いわゆるバットエンドです。

そしておそらくですが、クリスを逮捕した二人の警官のうちひとりは序盤に出てきた警官であると思われます。ここで例の差別的な警官が、また伏線として機能するわけです。

白人女性が地面に横たわり、その横に黒人男性がいたなら加害者は男であると決めつけられ、クリスは逮捕されるというオチですね。

実は監督はこっちの方をエンディングに据えるつもりでしたが、あまりに救いが無さすぎるのと、当時のアメリカの情勢を鑑みてハッピーエンドの方に差し替えたらしいのです。

ただ個人的にはバットエンドの方が良かったかなあと思ってしまいます。

後味は悪いですが、圧倒的に印象深いラストですし、差別意識によって監獄に放り込まれ結局「ゲットアウト」できないというのも、皮肉が効いてて良いタイトル伏線回収だと思うんですけどねえ。

まとめ:こんな人におすすめ

本作はこんな人におすすめです。

・伏線回収が緻密なストーリーが好き

・社会問題に切り込んだ作風に惹かれる

・ミスリードなんかに引っかからない自信がある

どうか最大限の警戒をもって、じっくりと考察しながら観てみてください。それでも、きっと、騙されますから。

タイトルとURLをコピーしました